「会社が事業を停止した。でも、自分の役員報酬はいつまで受け取っていいんだろう?」
弁護士に依頼する前後で、多くの経営者が悩むのがこの問題です。
止めたほうがいいのか、減額すべきなのか、それとも通常通り受け取っていいのか。判断を間違えると、後で破産管財人から「不当な支給」として指摘される可能性もあると聞き、私もかなり不安でした。
この記事では、実際に法人破産を経験した私が、事業停止から弁護士依頼、破産手続きを経て、役員報酬を「いつまで」「いくら」受け取ったのかを、実体験をもとにお伝えします。
役員報酬についての基本ルール
まず前提となる基本的な考え方です。
役員報酬は、会社と役員(経営者)の間の委任契約に基づく報酬です。法律上、事業が停止した瞬間に自動的にゼロになるものではありません。
ただし、注意すべきポイントが2つあります。
- 金額が合理的であること(実態に対して過大ではないこと)
- 支給のしかたが、これまでと変わらないこと(直前に増額・減額していないこと)
この2つを外すと、破産管財人から「不当に資産を流出させた」と判断され、否認権を行使される可能性があります。否認されると、受け取った報酬の返還を求められることもあります。
前提:「現金が残るタイミング」がある
ここで、多くの方が誤解しがちなポイントをお伝えしておきます。
「破産する=現金がまったくない」と思われがちですが、計画的に事業を停止した場合は、事業停止後にしばらく現金が残るケースがあります。
製造業や卸売業を例に考えてみます。
- すでに仕入れ済みの在庫があり、それを使って製造・納品を続ける
- 納品が終わったあと、取引先から売掛金が入金される
- 一方、買掛金(仕入先への支払い)は支払いサイトで後ろにずれている
このタイミングで、「売掛金 > 買掛金」という状態が一時的に生まれることがあります。つまり、入ってくるお金のほうが、出ていくお金より多い時期が、わずかながら存在するのです。
私のケースもこの構造でした。事業を12月で止めたあと、1月にかけて売掛金の回収が進み、役員報酬を支払う原資が会社に残っていたのです。
「事業停止後=即・破産=現金ゼロ」ではありません。計画的に止めるからこそ、最後に少し現金が残せる——この前提を理解しておくと、役員報酬の話もスッと入ってきます。
ただし、この「残った現金」は経営者個人のものではなく、会社の財産です。役員報酬として受け取る場合も、必ず弁護士と相談しながら、適切な金額・タイミングで受け取ることが前提になります。
私のケース:事業停止から弁護士依頼までの時系列
私のケースを時系列でお伝えします。
- 12月:事業を停止
- 1月:弁護士に相談
- 1月:弁護士と正式に契約
- 1月分:役員報酬を受け取った(最後)
事業を停止したのは12月でしたが、役員報酬は1月分まで受け取りました。
「事業を止めたのに、報酬を受け取っていいのか?」と最初は不安でしたが、弁護士に確認したところ、明確な答えが返ってきました。
弁護士からのアドバイス:「通常通り受け取ってください」
私が弁護士に役員報酬について相談したとき、こう言われました。
「事業は停止していますが、残務処理など、社長としてやるべき仕事は残っています。役員報酬はこれまで通り、通常の金額で受け取ってください。」
これは、決して「もらえるだけもらってください」という意味ではありません。「実態に見合った業務がある間は、これまで通りの報酬を受け取る権利がある」という法的な整理にもとづくアドバイスでした。
具体的には、事業停止後も以下のような業務が残っていました。
- 取引先への事業停止の連絡・対応
- 従業員の解雇手続きと未払い賃金の精算
- 帳簿・契約書類の整理
- 弁護士との打ち合わせ・書類準備
- 税務署・年金事務所などへの届出
これらは「社長」でなければできない仕事です。だからこそ、報酬を受け取る合理性がある——という判断でした。
「金額を変えない」ことが、なぜ重要なのか
私の役員報酬は月30万円でした。事業停止前も、停止後も、弁護士依頼後も、この金額を変えていません。
ここがとても重要なポイントです。
破産直前に役員報酬を増額すると、「会社の資産を経営者個人に流出させた」と疑われます。逆に極端に減額するのも、不自然な動きとして注目されることがあります。
破産管財人がチェックするのは、おおむね過去1〜2年分の役員報酬の支給状況です。「直前にだけ動きがある」と、必ず確認の対象になります。
私の場合は数十万程度でしたが、適正額は会社の規模や過去の実績によって異なると思うので、必ず弁護士に確認してください。

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役員報酬が止まった後、どう生活したか
正直に言って、ここがいちばん大変でした。
1月分を最後に役員報酬がゼロになり、2月以降は無収入になりました。家族のいる経営者であれば、ここから生活費をどうするかが切実な問題になります。
私の場合、以下の組み合わせで乗り切りました。
- 預金(事業と切り離して個人で持っていた分)
- 親族からの支援(一時的な援助)
- カードローン(あくまで最終手段)
ひとつだけ強調しておきたいのは、カードローンは正直おすすめできません。
破産を視野に入れている段階で新たな借入れをすることは、法的にも経済的にもリスクがあります。最終的に個人破産も検討する場合、「破産前の借入れ」として問題視される可能性があります。
可能な限り、預金と親族の支援で乗り切る計画を、弁護士と相談しながら立てることをお勧めします。
無収入期間には、こちらの記事にも書いています↓

破産管財人からの指摘は、ありませんでした
私のケースで結果的にどうなったか、お伝えします。
破産管財人から、役員報酬について何の指摘もありませんでした。
これは、
- 弁護士の指示通りに行動した
- 金額を変えなかった
- 過大な報酬ではなかった
- 支給のしかたを変えなかった
この4点を守ったからだと思います。
経営者に知っておいてほしい注意点
最後に、これから同じ局面を迎えるかもしれない経営者の方へ、いくつかの注意点をまとめます。
必ず弁護士の指示に従うこと
役員報酬の扱いは、会社ごとに事情が違います。「ネットの情報ではこう書いてあったから」で判断せず、契約した弁護士に確認することが絶対です。
直前に金額を動かさないこと
破産が視野に入った段階で、役員報酬の額をいじってはいけません。増額も減額も、後で説明を求められます。
通帳の動きは必ず残しておくこと
破産管財人は通帳・帳簿を確認します。役員報酬の振込記録、現金支給の場合は領収書など、証拠を残しておくことが重要です。
生活費の準備は早めに動くこと
事業停止後、役員報酬は遠からず止まります。「いつまで受け取れるか」を弁護士と確認したうえで、その後の生活設計を早めに立ててください。

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本記事は、筆者の実体験をもとにした情報提供を目的としています。役員報酬の扱いは個別事情によって判断が分かれますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
元・中小企業経営者(従業員十数名)。 経営悪化と人手不足により会社を廃業。
法人破産・経営者保証ガイドラインを経て 現在はサラリーマンとして再出発。
「自分と同じ規模の社長の体験談が見つからなかった」 という経験から、このブログを書いています。
より詳しい体験談はnoteでも書いています。

小さな会社を破産させると決めたときの具体的な流れはこちらに書いています。


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