資金繰り表を見て、「今月、もう無理だ」と気づいた瞬間。
その時の感覚は、経営者なら誰もが知っている、あの独特の重さだと思います。数字は嘘をつかない。何度見ても答えは変わらない。それでも何度も見てしまう。
この記事は、まさに今その瞬間にいる方に向けて書いています。
私は祖父の代から続く従業員十数人の小さな会社を経営していました。コロナ以降、設備資金の偏り、人手不足による生産未達、金利と返済の重荷が重なり、最終的に会社を畳むことになりました。法人破産と経営者保証ガイドラインを経て、現在はサラリーマンとして再出発しています。
その経験から、「会社の借金が払えない」と気づいた時に、社長が最初にすべきことを書きます。専門家の解説ではなく、当事者として実際に何をしたか、何をすべきだったかを正直に書いています。
私が「もう限界だ」と感じた3つのタイミング
「払えない」という事実は、ある日突然やってくるわけではありません。じわじわと、いくつかのタイミングを経て、確信に変わっていきます。
① 資金繰り表を見て「今月もたない」と感じた瞬間
毎月の資金繰り表は、経営者にとっての血圧計のようなものです。数字を見れば、会社の状態がわかる。ある時点から、その数字が「あと数ヶ月」というラインを下回り始めました。
最初は「まだなんとかなる」と思っていました。来月の入金、再来月の売上、コスト削減の余地。頭の中で何度も計算して、ぎりぎり持つ筋道を探しました。でも、何度計算しても、出てくる答えは同じでした。
② コロナ以降、売上が想定を下回り続けた時期
設備資金は事業拡大を見込んで借りていました。返済計画は売上の見通しに基づいていました。でもコロナ以降、その見通しが崩れました。
売上が一時的に落ちるだけなら持ち直せます。でも何ヶ月も、何年も、想定を下回り続けると、返済原資そのものが削られていきます。「来年は戻るだろう」と思い続けて、戻らなかった。あの感覚は、経営者にしかわからないと思います。
③ 従業員がやめて、繁忙期に手が回らないと悟った時
最後の決定打は、人手不足でした。
従業員がやめていく中で、繁忙期に対応しきれない場面が増えていきました。受注はある。でも作れない、納められない。売上が物理的に作れなくなる。これは資金繰り以前の問題でした。
「数字の上で苦しい」のと「現場として回らない」のは、別の限界です。両方が重なった時、私は会社の継続が難しいことを、本当の意味で理解しました。
「払えない」と気づいてから私がやったこと
行動はしました。動かないわけにはいきませんでした。
① 信金・銀行への追加融資依頼
最初に動いたのは、追加融資の相談でした。長年付き合いのある信用金庫の担当者は、こちらの状況をよく理解してくれていました。
ただ、追加融資には限界があります。返済原資が見えない状態で借りる金額を増やしても、結局は問題の先送りにしかなりません。担当者も誠実な方だったので、「この状況でこれ以上借りるのは、お互いのためにならない」とはっきり言ってくれました。
② 付き合いのある担当者への相談
中小企業診断士やサブバンクも交えて、立て直しの道を一緒に考えてもらった時期もありました。コスト削減、業務の見直し、得意分野への集中——いろいろな案を検討しました。
努力はしたつもりです。でも、根本的な売上不足と人手不足を、内部努力だけで埋めることは難しい局面に入っていました。
③ コスト削減・経費の見直し
固定費の見直し、不要な契約の解約、可能な限りの経費圧縮——できることはすべてやりました。でも、こういった努力で生み出せる金額には限度があります。月数万円〜数十万円の改善では、根本的な資金不足は解決しません。
動く前にやってはいけないこと
私自身の経験から、これだけは伝えたいことがあります。
個人の貯金を会社に注ぎ込み続けない
一時しのぎにはなりますが、根本解決にはなりません。私生活の余力を削ると、再起のための種銭まで失います。
社長個人のカードローンに手を出さない
法人と個人を分けて整理する選択肢が、後で取りにくくなります。経営者保証ガイドラインのような制度を使う際にも不利になります。
※私自身、カードローンで会社の資金を埋めていました。
それが後々どう自分に返ってきたか、番外編に書いています。
▶【番外編】3ヶ月、お金はどう回したか。

私が勧めない資金調達──ファクタリング
仕組みそのものは、違法でも詐欺でもありません
ファクタリングは、取引先に対する売掛金(未回収の請求)を業者に買い取ってもらい、入金日より前に現金化する仕組みです。
制度としては正当なものですし、実際に使うべき場面もあります(後述します)。私が問題だと思っているのは、弱っている人が使ったときの効き方です。
私が「劇薬」だと思う理由は3つあります
① 手数料が高い
手数料の相場は取引の形態によって幅がありますが、取引先に知られずに使える方式では、数%〜10%台後半になることも珍しくありません。
② 来月の自分から前借りしている
これが本質です。
ファクタリングで入ってくるお金は、来月入るはずだった自分の売上です。新しいお金がどこかから湧いてくるわけではありません。
つまり今月をしのいだ分だけ、来月の入金が確実に減ります。しかも手数料を引かれているので、減り方は前倒しした額より大きい。
売上が急回復する見込みがあるなら、これは有効な時間稼ぎです。でも、今この記事を読んでいる方の多くは、そうではないと思います。私もそうでした。「来月なんとかなる」と思い続けた月が、何か月あっただろうと、今なら思います。
③ 一度使うと、まず止まらない
来月が減る → だから来月もファクタリングを使う → 再来月がもっと減る。
この構造は、意志の強さでは止められません。構造上そうなるようにできているからです。そして手数料は毎回かかります。借入で首が回らなくなるのと同じ道を、もっと速い速度で進むことになります。
それでも使う価値があるケース
全否定はしません。次のような場合は、合理的な判断だと思います。
- 大口の受注が決まっていて、仕入れ資金だけが一時的に足りない
- 入金サイトが長い取引先の分だけ、一度きり現金化したい
- 事業は黒字で、タイミングのズレだけが問題になっている
共通しているのは、「これで終わる」と言い切れる使い方であることです。
逆に、「今月の給料と支払いのため」に使うなら、それは資金調達ではなく延命です。私はそう考えています。
結局これも、時間を買っているだけです
ファクタリングも、カードローンも、やっていることは同じです。お金を作っているのではなく、判断を先延ばしにする時間を買っている。
そして手数料や利息は、その時間の代金です。決して安くありません。
問題は、その買った時間で何をするかです。売上が戻る当てがあるなら、それは有効な投資でしょう。でも、もし当てがないまま次の月に進もうとしているなら——買うべきは時間ではなく、正しい判断材料です。
取引先への支払いを遅らせない
一度信用を失うと、選べる出口が一気に減ります。私が破産後も人間関係を維持できたのは、取引先と従業員への支払いを最後まで完了させたことが大きいです。
資産を勝手に処分しない
私は社用車を弁護士相談前に売却して、後から指摘を受けました。結果的には問題になりませんでしたが、本来は弁護士の指示の下で処分する必要があります。事前に必ず確認してください。
これらは「やってはいけない」と言うより、「後悔しないために、知っておくべきこと」です。

最初にすべきこと
私が今振り返って思う、「会社の借金が払えない」と気づいた時に最初にすべきことは、これです。
追加融資ではなく、まず弁護士に相談すること。
私が実際にこれをしたのは、限界が近づいてからでした。だからこそ、「もっと早く相談していれば」という後悔があります。
弁護士に最初に相談に行った時、こう言われました。
「もう少し早く相談してもらえれば、選べた選択肢があったかもしれません。」
この言葉は、責めるような口調ではありませんでした。でも、ずっと頭に残りました。
破産・廃業の全体的な流れと、私が実際に通った道筋は、 こちらの記事にまとめています。
▶【社長がもう無理だと思ったら〜小さな会社の終わり方、 人生の初め方】

「弁護士に相談する=終わり」という思い込みを捨てる
多くの経営者は、私と同じ思い込みを持っているはずです。
「弁護士に相談する=もう終わり」
この思い込みが、相談を遅らせます。私もそうでした。「相談に行く」ということは「敗北を認める」ことだと、どこかで感じていました。
でも実際は違いました。
弁護士に相談することは、終わりではありません。「自分にどんな選択肢があるかを知る」ための第一歩です。
経営難に対しては、複数の選択肢があります。
- 任意整理
- 民事再生
- 事業譲渡・M&A
- 経営者保証ガイドライン
- 法人破産
これらの選択肢のうち、どれが自分の状況に合うかは、専門家に相談しないと見えてきません。状況によっては会社を残す道がある場合もあります。早く相談すれば、選べる道は増えます。
弁護士相談の流れ
私の場合、弁護士には信用金庫の担当者から紹介してもらいました。
最初の相談で、弁護士はすぐに「こうすべきだ」とは言いませんでした。代わりに、現在の私が取り得る選択肢をいくつか示してくれました。任意整理、破産、事業や資産の売却——それぞれについて、私の状況で実現可能かどうかを確認しながら、丁寧にヒアリングしてくれました。
そして最後に「最終的にどうされたいかは、あなたが決めることです」と言われました。
選択肢が見えた瞬間、不思議と少し落ち着きました。漠然とした不安というのは、「何があるかわからない」という恐怖でもあります。選択肢が言葉になって目の前に並んだだけで、霧の中を歩いていたのが、少しだけ地面が見えた感覚がありました。
まとめ
「会社の借金が払えない」と気づいた瞬間は、終わりではありません。選択肢を知るための出発点です。
早く動けば動くほど、選べる道は多くなります。
私自身、もっと早く弁護士に相談していれば、別の道があったかもしれないと今でも思います。同じ後悔をする方が、一人でも減ればと願って、この記事を書きました。
まずは相談だけでも、動いてみてください。
【この記事を書いた人】 元・中小企業経営者(従業員十数名)。経営悪化と人手不足により会社を廃業。法人破産・経営者保証ガイドラインを経て、現在はサラリーマンとして再出発。「自分と同じ規模の社長の体験談が見つからなかった」という経験から、このブログを書いています。
より詳しい体験談はnoteでも書いています。

もし「その先」を知っておきたい方へ
実際に会社を畳むと決めたあと、何がどう進むのかをまとめています。今すぐ決断する必要はありませんが、選択肢の中身を知っておくだけでも、判断の質は変わります。
本記事は、筆者の実体験をもとにした情報提供を目的としています。個別の法的判断については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


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